GC day1 KRÜ.F vs C9W 所感

なぜC9Wは強いのか...

 ベルリンの地にて、ついに開幕したVCT Game Changers Championship(以下GC)。初日は3試合が行われ、G2 Gozenがダブルエリミネーション方式のトーナメントにおいて、アッパーファイナルまで駒を進めた。

vlr.ggより

 日本からは、東アジア予選を制した"FENNEL HOTELAVA"が参戦しており、日本時間11/17の午前2時よりTeam Liquid Brazilとの初戦を控えている。

 今回は、そんなGC世界大会の記念すべきオープニングマッチとなった、Cloud9 White vs KRÜ Femの試合、特にアセントを振り返っていく。

『アセント』

 KRÜ.F のピックマップ、アセントで試合ははじまった。

構成

 KRÜ.Fが典型的なアセントの構成を出してきたのに対して、C9Wはノーデュエリスト構成だ。

 サイファーは今後のアップデートで上方修正が予定されているが、現時点ではかなりピック率の低いエージェントになっている。(11/16 18:08追記 アップデートにより、現行パッチでは既にサイファーは強化されているものの、競技シーンにはまだ適応されていない)

 一般的にアセントは、メインの入り口が両サイトとも狭いため、ミッドを使った攻め方が重要視されるが、オペレーターの得意なエージェントのいないC9Wがどのようにミッドを掌握していくのかが気になる所だ。

1st "KRÜ.Fの選択とC9Wの撃ち合い"

 C9Wの攻めでスタートしたピストルラウンド。まずC9Wはミッドの情報を取りに行く。両サイドはきっちり詰め警戒して、ミッドにプレッシャーをかけていく動きだ。

 KRÜ.Fは比較的、敵を引き付けてから撃ち合いに持っていきたい配置を取っているので、C9Wはミッドの浅い部分はコントロールすることに成功する。

 

 Aショートにキルジョイがいる事が分かったところで、C9Wはより人数の少なそうなBサイトを挟み込もうとするが、KRÜ.Fのローテートを遅らせようと、一人でAショートにプレッシャーをかけ続けていたJazzyk1nsが隠れていたKRÜ.Fのオーメン、conirに倒されてしまう。KRÜ.FのAショートにおける『味方を隠す動き』は非常に参考になる。

 この瞬間、Aショートを失ったC9WはB挟みを決行するわけだが、この時点で、ミニマップを見ると、KRÜ.Fは人数有利を作れてはいるものの、A側とB側でかなり分断されてしまっている事がわかる。

 このままでは味方の寄りが間に合わず、サイトで耐えきる事が難しいので、サイトを明け渡す前提で、例えば2人でBメインを取りに行くなど、リテイクのためのエリア取りをしたいところだ。

 実際にはKRÜ.Fはバックサイト2人で耐える判断をする。結果は1-2トレードで人数差がなくなってしまった。

 2-2交換が出来れば人数有利をキープできたので、決して『間違った判断』だとは言えないが、ここで『イニシエーター2人』がダウンしてしまった事でリテイクの難易度が上がってしまったのは間違いないだろう。オーメンのconirが味方を助けるスモークを投げていないのもやや気になるポイントだ。

 最終的にはC9Wのオーメン、katsumiがKRÜ.Fのリテイクをシャットアウトする。この3キルは間違いなくkatsumiの撃ち合いの強さが表れたシーンだったが、リテイクの為のスキルがKRÜ.Fに残っていれば結果は変わっていたかもしれない。

3rd "1stがKRÜ.Fに与えた影響"

 2ndラウンドを終え、KRÜ.Fが武器有利で迎えた3rdラウンド。1stでサイト耐えに嫌なイメージを持ったのか、武器有利ラウンドはリテイク重視と決めているのかわからないが、KRÜ.FはAサイトを早々に空ける選択を取る。
 リコンボルトと、katsumiのオーメンウルトで『サイト中は薄い』という判断を下したC9Wは、比較的楽にAサイトを取り切ることに成功する。

 武器が弱いC9Wは、ヘヴン下や、シャッター前など、なるべく近距離で撃ち合える場所を選んでポジションを取っていく。KRÜ.Fとしては、比較的長いレンジで撃ち合えるヘヴンをまずはしっかりとってからリテイクに動き出したい。

 Jazzyk1nsがこの逃げられないポジションにいる事に気づいたからか、理由はわからないが、conirが一人でスキルも使わずに動き出してしまう。Jazzyk1nsのこのポジションはヘヴンからの斜線を切る事ができないので、メインスモークを炊いてヘヴンのプレイヤーに撃ち合わせれば簡単にワンピックを取れたはずだが、結果として逆にワンピックを取られる形になってしまった。

 世界大会の場で緊張していたのか、積極的に撃ち合っていく事でパフォーマンスを上げていくタイプのプレイヤーなのかは、過去の試合をチェックしていないのでわからないが、conirはここまでの3ラウンドだけ見ても、ややスキルを使わずに倒される場面が目に付くように感じる。

 C9Wはサイトを取り切った後もまだ時間かせぎが出来ていたため、meLの遅めのラークが間に合い、3ラウンド目も武器不利だったはずのC9Wが獲得するという結果になった。

 やはりこのラウンドを見ると改めて実感するが、0デュエ構成のC9Wは『足止め』能力にたけており、一度フリーで設置されてしまうとかなりリテイクが厳しくなる。ワンピックを狙っていくか、サイト中で耐えて簡単に設置させないか、今後のKRÜ.Fの対策にも注目だ。

7th "遅すぎたアグレッシブ"

 実はここまで取り扱っていないが、2,4,6ラウンド目と、エコラウンドのKRÜ.Fは徹底して固まってどこかをプッシュする動きを見せており、比較的広がってミッドを重視してきたC9Wにはそれが刺さってワンピックやトレードが取れていた。

 しかし、その後の少人数戦になるとやはり武器不利が重くのしかかり、ラウンドを取れていなかった。『もしこれがバイラウンドだったら...』そう見ている僕も思ったし、プレイしているKRÜ.Fの選手たちも感じたのかわからないが、ついに7ラウンド目にしてバイラウンドで『アグレッシブなセットアップ』を決行する。

 それを読んでいたのか、それとも嚙み合いなのか、C9Wはミッドを捨ててA攻めを選択する。

 ワンピックを取り損ねたKRÜ.Fは、裏を抑えて勝負しに行く事で、先ほどやられた『meLの遅めラーク』を対策しようとするが、romiが1on1に負けて逆にピックを取られてしまう。

 しかもC9Wは早めのリテイクを警戒してか、KAY/Oウルト中は安易に設置せず、サイト中で息をひそめてKRÜ.Fを揺さぶる。

 BoBがソーヴァウルトを切ったところで、『壊せなくなったから』とconsuもキルジョイウルトを使っていくが、C9Wはまだ設置していないうえ、時間も50秒残っており、katsumiのオーメンウルトでさらにKRÜ.Fをかく乱していく。

 気づいたらKRÜ.F目線で取れているエリアがほとんど無くなってしまい、さらに人数不利ということもあり、C9Wが好きなように攻め先を選べる状況が整ってしまった。

 これが全て、『C9Wの掌の上』なのか、それとも『何かしらのトラブルへの対処が上手かった』のかはわからないが、KRÜ.Fの動きに比べて非常に落ち着いた雰囲気というものが感じられる。GCの発表があるはるか前から女性チームとして練習を積み重ねてきた自信が表れているのかもしれない。

10th "ようやく取れたラウンド"

 B中守りはここまで確かに上手くいっていなかった印象があるが、A中守りの形はあまり見せてこなかった。出来ればAに攻めて欲しいKRÜ.Fは、プラウラーでBメインを掌握し、マーケットからもジャンプピークで圧をかけ、C9WをAに行かせることに成功する。

 トレードの末、人数では3on4と差をつけられてしまうものの、C9Wを囲い込めたKRÜ.F。meLの使ったサイファーウルトで囲まれている事に気づいたC9Wはbaeshtの待つAサイトに飛び込んでいってしまう

 2on2になったが、設置の出来ていないC9Wに対して、相手の配置がある程度わかっているKRÜ.Fに少人数戦の軍配は上がった。待望の1ラウンドはやはり、『設置される前に人数を削る』事が出来て初めて取る事が出来たわけだ。

 C9Wとしてはまだまだ時間は残っていたので、焦って設置しに行くのではなく状況をもう少し整えられたら少人数戦も勝ち切れたのかもしれない。

13th "ミッドの取り合い"

 攻守が変わって、攻めがKRÜ.F、守りがC9W。攻めでもミッドをしっかりコントロールしていたC9Wは当然守りでもミッドにプレイヤーを集めていく。しかしKRÜ.Fは最終的に5人全員をミッドに集めたので、ここでの撃ち合いに勝利し、そのままAショートを取り切り、1stラウンドを獲得する。

15th "エリアコントロールと人数差"

 ファーストピックこそ取られたものの、ミッドを守っていたBoBをCTまで押し下げる事に成功したKRÜ.F。マーケット付近までしっかりエリアをとって、相手をBに寄せたい動きにも見えたが、Bメインの音をずっとサイファーカメラでmeLが聞けているので、C9WはJazzyk1nsをAに戻すことが出来た。

 最終的にAショートを3人で守れたC9Wはしっかりキルトレードをして守りの3ラウンド目を取り切る。

 KRÜ.Fの動きも決して『悪くはない』のだが、やはり先に人数差を作れた分、C9Wは無理せずどっしり構えられているので、そこを崩すことはできなかった。

 やはりエリアが取れているので、上手く相手を動かして局所的な人数有利を作れればそれがベストだが、簡単なことではないだろう。

最終17th

 最終ラウンドとなった17ラウンド目は、meLが早々にBメインをプッシュしてエリアのほとんどを一人で掌握する。CRに加入したばかりのMunchkinを彷彿とさせる、自信に満ち溢れたアグレッシブなプレイだ。

 結果的にmeLは1-1トレードでやられたので、その瞬間C9Wの持っていたエリアはほとんどなくなってしまう。3on4とはいえ、急にエリアのほとんどを失い、ややC9Wも浮足立った様子があったので、つけいる隙があるかと思ったが、KRÜ.Fはそのまま50秒近く残した状態でA攻めを敢行。

 中守りしていたalexisに全員が倒されてしまい、あっけない幕切れとなった。

まとめ

 勿論、C9Wのチームとしての連携力、撃ち合い、個々のアビリティ判断など、総合的に見て『実力差』がでてこのラウンド差になったとは思う。特に試合を見ている限り、meLとkatsumiのクレバーな動きに目が行く。そして、大事な撃ち合いをきっちり勝ち切る勝負強さも彼女らの魅力の一つだろう。

 しかしこう俯瞰で見ていると、いかに『やられたことに対してインゲームで修正する』のが難しいかが良く分かる。強力な作戦も、出すタイミングによっては機能しないし、『撃ち合い』で負けた部分を『立ち回り』が悪いと思った結果、さらに良くない方に修正してしまう事もあるだろう。

 KRÜ.Fはその修正が大体『後手』に回ってしまい、上手く対策をC9Wに『差す』事が出来なかったという印象だ。

 もっと『自分たちのやりたい事』を早い段階で押し付けられたら試合の展開を掴めるのかもしれない。

 また、エリアコントロールという観点で見ても、C9Wの方が、『ミスなく』『より深く』『より素早く』取れていて、さらに取れたエリアを『上手く使えている』印象だ。素早く動いている分、相手のカウンターの動きを見て、攻め先をコントロールできるし、エリアを一部取り返されてもその後のオプションがたくさん残っている。

 やはり、伊達に2020年からほぼ同じメンバーで活動してきてないな、という連携力の高さを見せつけてくれた。

 そんなC9Wは、G2 Gozenに敗れ、lowerブラケットに落ちてきている。トーナメント表を見る限り、今後の大会の展開によってはFENNNEL HOTELAVAと対戦する可能性もあるので、まだまだGC、注目してみていきたいと思う。